離婚と公正証書
2010年07月16日
- 離婚相談
五月のゴールデンウィーク明けの昼下がり、一人の女性が私の事務所を訪れた。以前女性の亡父の相続登記を行ったことがあった。今回は彼女の離婚についてだという。
彼女のご主人は、俗にいう「いい人」ではあったが、性格的に弱いところがあり、小さな借金を二度ほどしてしまい、そのたびに彼女の両親が肩代わりしたのだという。そして今は、ほかの女性と暮らし出したそうである。彼女は、子供が大学を卒業するまでは我慢しようと思っていたが、幸い子供が、離婚を勧めてくれたそうである。
- 不動産の名義を書き換えたい
夫婦共有の一戸建てがあるが、夫は自分の持分を妻名義にすることに同意しているという。そこで、まだ住宅ローンの返済が残っているのか聞いてみた。すると、あと三〇〇万円ほど残っているとのことである。私は住宅ローンの契約書に、不動産所有権の名義書換が借入債務の期限の利益喪失事由として記載されているかを確認し、記載されている場合には銀行に承諾を求めるようアドバイスをした。期限の利益喪失事由が記載されているにもかかわらず、銀行の承諾を得ずに名義書換を行うと、直ちに残債務の全額返済請求を受けたり、抵当権を実行されたりするからだ。
銀行に承諾を求めたところ、依頼人には父からの遺産であるアパートの家賃収入が運よくあったので、承諾してくれた。
また、財産分与として居住用不動産を譲渡する場合の特別控除を受けるためには、持主と特別の関係にない人に譲渡する必要があるため、離婚後に財産分与の手続を行ったほうがよいことも伝えた。
- 慰謝料よりも養育費が大切
依頼人は、慰謝料はいらないが父親らしく養育費は支払ってほしいと希望しており、これを書面にしてほしいとのことだった。そこで、公正証書にすることを勧め、以下のような項目を記載することを提案した。
1.離婚の合意
2.親権者を定める旨
3.○○年○○月○○日~○○年○○月○○日までの、子○○○の大学卒業まで月五万円を○○銀行○○支店(口座番号)に振り込んで支払う旨
4.3の金銭債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する旨
である。
依頼人は、公正証書で約束事を決めたうえに、支払わないときには強制執行までできることに喜び、強制執行の一文だけでも気の弱い夫は支払わなければならないプレッシャーを感じるだろうと言った。
- 年金も少しは分けてほしい
さらに、私は離婚時年金分割制度を思い出した。
この制度を利用するためには、手続として、
1.社会保険庁に「年金分割のための情報提供」を請求
2.同長官からの「年金分割のための情報通知書」の交付
3.「年金分割の割合」について夫婦間での合意
4.分割合意の書面化(公正証書または公証人の認証を受けた私署証書で)
5.社会保険庁長官に対する年金分割の請求
6.同長官からの「標準報酬改定通知書」の交付
が必要となる。
分割合意も公正証書に盛り込もうということになった。
- 幸せは自分の手で
数力月後、依頼人は夫と公証人役場で公正証書を作成し、二人で市役所に離婚届を提出した。
そして、その足で二人して私の事務所に来られ、不動産の離婚に伴う財産分与を登記原因とした所有権移転登記に必要な書類を置いていった。
依頼人の、夫が自分以外の女性と付き合っていることを知ったとき、自分ほど不幸な人間はいないと思ったが、幸せになるには自分から幸せになろうとしなければいけないのだと思った、という依頼人の言葉が印象的だった。彼女の笑顔を見て、幸せも笑っている人のところに来るのだとつくづく感じた。
不在者財産管理人
2010年06月15日
- 相続人が音信途絶である場合に 利用
不動産の相続や売却等で、行方不明のAが含まれていて処分が滞ってしまう場合、不在者財産管理人制度を利用することができる。
私の事務所に10年ほど前に相続登記の依頼にこられた60歳代の女性には子がなく、被相続人である失の兄弟が相続放棄するので、夫名義の家屋敷は自分か単独で相続したいとの話であった。配偶者は常に相続人であるが、子がなく両親も他界しているこの場合は、兄弟姉妹が共同相続人となる。
老婦人に夫の兄弟の様子をうかがうと、全部で九人だが、末の妹が米国人と結婚して平成二年頃から音信途絶であるらしい。「あの子はいつも勝手なことをして、手紙一つ寄越さない。他の兄弟は相続に口を挟まないので、妹はいないものと無視して手続を進めてください」と依頼者は苛立っていた。
義妹の推定相続分は36分の1だが、一人でも協議に加わらなければ希望どおりの単独所有にはならない。音信途絶だけでは死亡とはいえず、依頼どおりに妹を無視することはできない。この場合、家庭裁判所の不在者財産管理制度を利用することとした。従来の住所またぱ居所を去った者は不在者と呼ばれる。不在者の推定相続分を管理すべき財産として、家庭裁判所に財産管理人を選任してもらい、遺産分割協議(権限外行為)の許可がとれれば障害がなくなるだろう、というわけである。
依頼者に法律の仕組を理解してもらい、不在者財産管理人の選任申立につき了解してもらうのは大変だった。管理人には、「動ける」ことが買われて、私がなることとなった。気がつけば、被相続人の両祖父母まで戸籍をさかのぼり、親族に事情を書いた書面を送り、保管している手紙などを借り受けるなどの準備いっさいを受け持つことになっていた。
申立後の手続は順調に進んでいった。私を不在者財産管理人とする審判に次ぎ、権限外行為の許可も出て、遺産分割協議を行った。被相続人の不動産は依頼者が単独取得し、依頼者は固有の資産より不在者のために推定相続分相当額を拠出して管理人が預貯金として保管するという内容である。
- 失踪宣告の申立も行う
しかし、これで一件落着ではない。分割でできた預貯金の行方を依頼者が心配しているので、音信
途絶となってから七年が経過したこともあり、失踪宣告の中立をした。このままでは預貯金は行き所
がなくなるからである。失踪宣告が認められれば、不在者が死亡したものとみなされ預貯金が相続さ
れる。失踪宣告の要件は、不在者の生死が七年間以上わからないことであり、管理人である私が申立人である。海外移住者の場合、管轄は東京家庭裁判所になる。申立後に調査官との面接があったが、不在者の生死、居所を確かめようとする姿勢が強かった。すでに出入国記録の照会を終えているようであり、事情聴取も丁寧に行われた。また、外務省で海外移住者の所在照会を行ってほしいとも要請された。海外に在留する日本国籍を有する者で、在留都市等の名が特定できる場合に、当該都市等を管轄する在外公館に調査をしてもらう制度だそうだ。その調査結果を失踪宣告の判断にも利用しようというわけである。
同照会の中込人は三親等内の親族にお願いし、一年後に失踪宣告の決定書が送付されてきて、審判確定後は戸籍法上の「失踪宣告の裁判確定」の旨の届出を行った。財産は地元の家庭裁判所の指示に従い、適切な処理をして終結。最初の相談から三年が経過していた。
これらの手続をするうえで注意したいのは、関係者の心情への配慮である。冒頭の老婦人は最後まで預貯金を気にしていた。外務省の所在照会で申込人になっていただいた方は、不在者と面識のない人だった。関係が近く、思い出がたくさんある人はその分、戸籍上とはいえ、死亡と見なす手続に対しては協力し難いようである。
本人の確認、意思の確認
2010年05月14日
- 司法書士の立会業務
通常、不動産売買の取引は、売主からの登記に必要な書類と買主が支払う売買代金を交換する形で行われる。私たち司法書士は、その決済の場に立ち会い、登記手続に必要な書類等の確認をする。最近はこだわらない人も増えたが、やはり、大安吉日が多く、複数の関係者が一同に会することが多いため、司法書士事務所、仲介不動産業者事務所、金融機関等で行われる。司法書士は売主・買主両当事者に登記手続の説明をし、本人の確認、意思の確認を行う。そして署名押印や必要な書類を受け取る。すべての書類が整っていることを確認し、その旨を当事者・仲介業者・融資する金融機関に告げる。この確認は絶対にミスが許されない。「すべての書類は整っています。必要な確認も終わりました」。司法書士のその言葉を待って、買主は売主に売買代金を支払うことになる。司法書士の緊張の一瞬である。
先日、印鑑証明書の偽造を見破り、不正な取引を未然に防いだ司法書士の話を聞いた。その司法書士は、印鑑証明書が変だと思ったのではなく、売主の挙動が不審だったため印鑑証明書の番号から発行した役場に真偽を確認したそうである。このような事件は万に一つかもしれない。が、その万に一つの不正取引を防ぐために、司法書士は、立会においていろいろな確認をする。ただ買主のためだけではない。その後その登記を信頼して取引をする人々のため、でもある。
数十年前なら登記に必要な書類の確認だけをするという司法書士もいただろう。しかし、現在の司法書士は、「人」「物」「意思」の確認をしたうえで書類の確認をする。登記の依頼人がその人本人であるかの確認、その人の意思の確認、そして登記原因の確認である。だから確認する書類も単に登記中請に必要なものだけではなく、登記の真実性を確保するという司法書士の職責を果たすため、また権利関係等の把握に努めると定められた司法書士倫理から求めるものもある。
- 本人確認
本人確認は、面識のない当事者の場合、運転免許証等の写真付の身分証明書で行う。大会社等の取引で会社を代表する者の本人確認ができない場合、業務権限を与えられた者と面談し、その者の本人確認、その者の業務権限を確認する。その必要性を説明し、和やかな雰囲気づくりを心がけるが、時には、「疑っているのか」と怒られることもある。それは仕方がない。何でも信用していたら職責は果たせない。
- 本人の意思、登記原因の確認
さらに、本人の意思、登記原因の確認である。犯罪行為のような不正な取引でなくても当事者が誤解している場合もある。この確認でも、余計なお世話だ、と不愉快に思われることもあるのだが、司法書士には、権利関係を把握する義務、問題のある取引の場合説明義務がある。どの程度まで、というのが難しいところなのだが、個々の取引の内容、当事者の立場から判断する。
- 登記原因証明情報の作成
そして登記原因証明情報の作成だ。平成16年の不動産登記法改正で、登記原因を証明する情報が登記手続に必要となった。売買では多くの場合、これを司法書士が作成する。当事者、売買物件、売買の事実、許可や第三者の承諾が必要な場合はそれらの経緯を書面にする。そして、司法書士が売買代金の授受を確認したこと、売買契約書の写し等の保管している書類、立会の場所、同席者等を記入し、司法書士も押印する。すべて後日の紛争防止のためである。
登記事件の受託において、本人確認、本人の意思の確認、登記原因の確認は、司法書士にとって最も重要な職務である。運転免許証や売買契約書など、登記に不要なものまで確認するのか、と思われることもあるだろうが、ご理解とご協力をお願いしたい。
「贈与する」との遺言書
2010年04月15日
- はじめに
先日、遺言による登記の依頼を受けた。自筆証書遺言(検認手続済)であった。遺言書によれば、亡父から、長男(依頼者)と次男に対し、それぞれ、特定の土地、建物、預金、有価証券、動産を別々に「贈与する」という内容であった。土地は、30筆ほどあり、うち数筆は、農地しかも市街化調整区域内であった。遺言執行者ぱ、定められていない。法定相続人は、妻、長男および次男であるが、次男が亡父に先立ち死亡しているため、その子三名が代襲相続人となっている。
- 「贈与する」をどう考えるか
文言上は、死因贈与が思い浮かぶ。死因贈与は、始期付贈与の一種であり、人の死はいつか必ず訪れることであるため、条件付ではなく始期付と考えられている。しかし、贈与契約は当事者の合意により成立する法律行為であり、本件の場合、亡父の生前に始期付契
約が成立しているとは考えにくい。そこで、この場合、遺言者が遺言により財産の全部または一部を他に譲渡する遺贈と解すべきである。登記実務の先例でも「共同相続人の各々に、相続財産の一部をそれぞれ贈与する旨の記載のある遺言書に基づく所有権移転登記の登記原因は遺贈とする」としている。
- 農地の遺贈
本件では、包括遺贈ではなく特定の財産を譲渡する特定遺贈であるため、市街化調整区域内の農地については、登記手続前に、農地法所定の三条許可(市街化区域内は届出)を受ける必要がある。
市街化調整区域内の農地は、1.市街化を予定していない、2.原則として建物の建設ができない、3.農地として継続使用することを予定している土地であり、所有権移転、賃借権設定等の際には、農業委員会等の所定の許可が効力発生要件となっている。
なお、相続および包括遺贈の場合は、被相続人の権利義務いっさいを包括承継するため、売買、贈与等の特定承継の場合とは異なり、農地法所定の許可は不要である。
●登記申請手続
ところで、遺贈と相続の登記申請手続には、次の違いがある。
遺贈では、遺言者相続人(または遺言執行者)と受遺者との共同申請となり、遺言者側の印鑑証明書、登記済証等の添付が必要となる。相続においては、具体的相続人の単独申請により、相続証明書の添付が必要となる。
登録免許税率は、不動産評価額に対し、遺贈が1000分の20、相続が1000分の4であるため双方の間には大きな差がある。
●遺贈と相続税
また、相続税法上は、相続、遺贈、死因贈与、相続時精算課税に係る贈与が、同法の適用対象となるため、遺贈の場合にも相続税を納付する必要がある。
なお、財産を取得した人が、被相続人の一親等の血族(代襲相続人を含む)および配偶者以外の人である場合は、相続税額が20%加算となる。
●現実的な処理方法の選択
本件においては、遺贈による登記手続を選択した場合、前記のとおり、事務処理上の負担および経費の負担がそれなりに必要となる。この方法に対し、相続による登記手続が可能であれば、事務量および手続費用が、軽減する。このような負担を相続人に課すことは、亡父の本意ではなかろう。
そこで、依頼者に対し、「法定相続人全員による遺産分割協議をすることが可能か」と尋ねたところ、親戚付き合いを普通にしており、事情を話せば遺言書どおりの内容で遺産分割協議をすることはできるとのことであった。
なお、遺言執行者がある場合には、相続人が、相続財産にてきした処分行為が、無効となることがあるため注意が必要である。
以上の事情により、本件は、遺産分割協議書を作成し、相続による所有権移転登記手続として処理された。
本人確認・意思確認の役割
2010年03月23日
- 十分な聴き取り調査を依頼
先般、不動産業者から、お客さんが土地(宅地)を購入するので、登記手続をお願いしたいと相談を受けた。売主は三〇年前に土地のあるH市から転居して、現在娘さんのいる愛知県名古屋市にお住まいとのことであった。
私は、その不動産業者に、「売主本人に会いましたか」と尋ねたところ、「いえ、娘さんには会いましたが、売主本人にはまだ会っていません」と言う。続いて年齢を尋ねると「もう八〇歳は過ぎているそうです」とのことだった。
私は、不動産業者に、売主本人の状況をもっと聴き取り調査してほしいとお願いした。不動産業者は「不動産売買契約書は作成しているし、娘さんも、その宅地を売ってもいいと言っている。不動産売買契約書を名古屋へ送り、署名捺印してもらい、一通返却してもらえば契約は済むと言っておられる」と言う。私は「売主本人にお会いして売買の意思確認をしないと、後で問題になったとき困りますよ。本人と直接面談して売却の意思確認をしてください」と伝えた。私はさらに「私も本人確認および登記申請意思確認をしたいのでいっしょに行きましょうか」と打診したが、都合があわずいっしょに行くことはできなかった。
一週間後、その不動産業者が来所し、「先生の言われるとおり、名古屋に行って本人に会ってきました。売主本人は、現在介護施設に入所中でした」とのことであった。私は「宅地建物取引主任者という資格者も、不動産の売却の仲介にあたっては、本人確認・意思確認をするのが当然であり、それを省略して売買の仲介を行った場合は問題になると思われます。ちゃんとお会いして本人確認・売却意思確認をされたので、私も安心して登記申請手続ができます。しかし、私も司法書士ですから、売主・買主双方の代理人として、売買による所有権移転登記申請手続のためにも直接売主本人にお会いして、本人確認・登記申請意思確認をしなくてはなりません」と話した。
- 本人確認のため現地へ
私は、すぐに売主の娘さんに連絡をとり、売主本人が入所している名古屋市の介護施設へ行った。さっそく売主本人に会うため、面会室へ案内されて待っていると、本人が車椅子で来られた。娘さんが、「お婆さんが昔住んでいたH市から司法書士さんが来られましたよ」と言うと、大変懐かしがられていた。売主本人の緊張をほぐすため、H市のことをお話しすると、かつて住んでいた場所の近くにあった学校は今どうなっているのかと尋ねられ、「今も何ら変わりませんよ」とお答えすると安心されたようであった。
そして登記原因証明情報と登記手続用委任状を持参していたので、署名捺印をもらう前に、売主本人の介護保険被保険者証等を見せてもらい、氏名、年齢(生年月日)、干支等を尋ねたところはっきり返事をもらえたので、本件不動産の売買による所有権移転登記申請についての意思確認を行ったところ、間違いのない心証を得た。
そこで、持参した委任状に署名をお願いしたが、売主本人は、手が震えて上手に字が書けないから、娘さんに書くようにと言ったが、私は「おばあちゃん、展示会に出品するのではないから、書いてください」としつこく頼み、弱々しい署名ではあったが自分の名前を書いていただいた。実印は娘さんがご本人の面前で捺印した。権利証をあらかじめ用意してもらっていたのでそれを預かり、登記申請については、買主からの入金を確認したら法務局に持ち込むことにして、すべての案件を終了して施設をあとにした。それから三日後、入金の確認ができたと連絡が入ったので、法務局に登記申請をし、二日後無事に登記完了した。
このように、登記の真実性確保につき、司法書士の本人確認・意思確認の役割が増加して責任が重くなったが、時代の要請でもあり、依頼者に迷惑をかけないためにも慎重に進めなくてはならない。
会社のさまざまな相談に対応する
2010年02月23日
- 会社法施行による従来からの変更点
昨年五月一日に会社法が施行されてから、これに関する相談が増えている。
中でも、会社の実情にあわせ、定款をどのようにすればよいのかの相談を受けることが多くなった。
設立の相談では、「資本金をいくら用意すればよいか」といった相談が多いが、「金額はあなたが決めることですよ」といった対応では依頼者の足が遠のいてしまう。そこで、私は「資本金は可能であれば300万円以上は準備したほうがよい」とアドバイスしている。登記手続に関する費用だけでも30万円以上は必要で、300万円程度の純資産がないと、剰余金の分配もできないし、対外的な信用というものもあるからである。
また、取締役の任期の相談も多い。公開会社でない会社の取締役の任期は、最大10年まで伸長することができる。だが、第三者の出資者や長年会社に貢献した社員を役員にしている会社では、任期中にその者が会社にとって不都合になり解任すると、残任期分の報酬を損害賠償として支払わなければならなくなるおそれがある。このようなことから、任期は原則として二年なので、その原則に従うか、長くても監査役の任期が原則として四年なので、それに準じるのがよいのではないかと助言している。
会社法においては、取締役会を設置するかどうかは、定款により定めることができることとされた。そのため、通常、取締役会で決議するような事項についても、取締役会を設置しない会社は株主総会で決議する必要がある。株主が少数で、安定している会社であれば容易に臨時株主総会を開催できるが、数十名の株主がいる会社が開催するには、面倒な手続が必要になるため、取締役会は設置しておいたほうがよい。
私は、依頼者が会社をどのように運営していきたいかをじっくり聴き取り、相談に応じている。定款作成を依頼された場合、会社法により変更になった立法趣旨を説明し、そのメリットとデメリットを示すことにしているため、依頼者が納得する定款に仕上げるには非常に時間がかかる。
そして登記申請をするにつき、たとえば、1.取締役会廃止、2.取締役の退任、3.株式譲渡制限会社の譲渡承認機関を株主総会へ変更する登記をする場合、登録免許税が7万円必要になることを説明する。依頼者の中には「それだけ経費が必要なら考え直す」と中断するケースもある。
- 依頼してくる会社のパターンにあわせた業務
商業登記の申請を依頼してくる会社は、大きく分けて、1.自社で議事録などを作成するケース、2.税理士事務所から顧問会社の登記申請を依頼されるケース――この場合、税理士事務所が議事録などを作成してくる場合と、要領を指示して議事録などは当事務所で作成する場合がある、3.会社から直接書類作成を依頼されるケースの三パターンがあるが、それぞれ相談の関与度が異なる。1の場合、株主総会招集通知案までチェックを依頼される会社もある。
会社法施行規則には、株主総会参考書類に記載しなければならない事項が細かく定められている。たとえば、役員選任議案は候補者の氏名、生年月日、略歴、候補者が当該会社の株式を所有しているか、会社と特別の利害関係があるか等を記載しなければならない。そうした記載が抜けていないかをチェックすることになる。
前記2の場合は、要領よく指示があるので手間はかからない。3のケースは依頼者が会社をどのように運営したいかを聴き取り、議事録以外定款まで作成するケースが多く、時間がかかる。
このように会社法務といってもさまざまな対応が求められる。司法書士としてやりがいを感じるとともに、依頼者に適切な説明、助言ができるよう日々研讃に努めている。
司法書士とともに奮闘する司法書士会
2010年01月26日
- 司法書士会とは
今回は我々司法書士が必ず登録しないと業務が行えない司法書士会活動について紹介しよう。
司法書士が司法書士業務を行うためには、日本司法書士会連合会に備える司法書士名簿に、所属する司法書士会を経由して登録を受けなければならない。
司法書土会は法務局または地方法務局の管轄区域に一会設立された司法書士法上の法人で、会員の品位を保持し、その業務の改善進歩を図るため、会員の指導および連絡に関する事務を行っている。
そして、その会則に定められた事業の一つに「国民に対して司法書士が提供する法的サービスの拡充に関する事項」を掲げている。
- 具体的な社会問題への取組み
司法書士会は、以下のような取組を具体的に行っている。
(1)各地で日曜法律相談所や司法書士会館・役所などでの常設、定期的相談所を開設し、a. 多重債務者、個人再生・破産問題
b. サラサラ血液商法、キャッチセール、住宅リフォーム・寝具・呉服・貴金属などの強引な訪問販売などの悪質商法などの消費者問題
c. 虐待された女性や子供、高齢者の人権問題
d. ホームレス自立支援のための相談
などの問題につき相談員を派遣して法的サービスを行っている。
また、資力に乏しい人が法的なトラブルに遭った場合に無料法律相談を受けることができ、さらに必要な場合には、法律専門家である弁護士や司法書士を紹介して、裁判費用などの立替を行う日本司法支援センター(法テラス)の組織員としての司法書士を募集・派遣している。
(2)次世代を担う高校生などに対して、法教育・消費者教育などのテーマで講師を学校に派遣して、法律講座の開催を行うなどの法教育活動の推進
(3)成年後見センター・リーガルサポートや市町村の地域包括支援センターとの連携による高齢者問題、障がい者自立支援への側面的協力
(4)セクシュアルーハラスメソトの防止のための「女性とこどものための相談会」の開設など国 民に対する法的サービスの提供や人権擁護活動
- 会員に対する指導、連絡
(1)司法書士の資質の均質を図るため、登記、簡裁における裁判実務、成年後見、司法書士倫理などいろいろなテーマの研修会を開催し、年間最低コー単位の研修の受講を義務づけており、また、履修単位未取得会員に対しては会長指導を行い、研修会の受講を促進している。
(2)公益活動に関する規則を制定し、司法書士が積極的に各種相談会や委員会に参加することや、社会奉仕に参加することを義務化。
(3)受託事件の処理方法や報酬問題などで苦情を寄せられた会員の綱紀事案については、綱紀委員会を設置し、公正な立場で事案を分析し、適切な処分を行い、悪質な事案については注意勧告や会長指導など適切な処分を行っている。会員に対する連絡に関しては、不動産登記法、会社法、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律など最近大幅な法改正などが相次いでいるが、それらの法改正に司法書士が対応できるよう情報を提供することが重要かつ欠かせないものになっている。
- オンラインへの対処
登記記録のコンピューター化やオンラインによる登記申請の環境整備が進められ、国からのオビフ
イソの積極的な利用の要請もあることから、登記情報のインターネットによる請求やオンライン登記
申請の普及促進のための研修、指導のため、司法書士会の役員や職員は大奮闘をしている。



