司法書士・行政書士小川貴彦事務所

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本人確認・意思確認の役割

2010年03月23日

  • 十分な聴き取り調査を依頼
 先般、不動産業者から、お客さんが土地(宅地)を購入するので、登記手続をお願いしたいと相談を受けた。売主は三〇年前に土地のあるH市から転居して、現在娘さんのいる愛知県名古屋市にお住まいとのことであった。
 私は、その不動産業者に、「売主本人に会いましたか」と尋ねたところ、「いえ、娘さんには会いましたが、売主本人にはまだ会っていません」と言う。続いて年齢を尋ねると「もう八〇歳は過ぎているそうです」とのことだった。
 私は、不動産業者に、売主本人の状況をもっと聴き取り調査してほしいとお願いした。不動産業者は「不動産売買契約書は作成しているし、娘さんも、その宅地を売ってもいいと言っている。不動産売買契約書を名古屋へ送り、署名捺印してもらい、一通返却してもらえば契約は済むと言っておられる」と言う。私は「売主本人にお会いして売買の意思確認をしないと、後で問題になったとき困りますよ。本人と直接面談して売却の意思確認をしてください」と伝えた。私はさらに「私も本人確認および登記申請意思確認をしたいのでいっしょに行きましょうか」と打診したが、都合があわずいっしょに行くことはできなかった。
 一週間後、その不動産業者が来所し、「先生の言われるとおり、名古屋に行って本人に会ってきました。売主本人は、現在介護施設に入所中でした」とのことであった。私は「宅地建物取引主任者という資格者も、不動産の売却の仲介にあたっては、本人確認・意思確認をするのが当然であり、それを省略して売買の仲介を行った場合は問題になると思われます。ちゃんとお会いして本人確認・売却意思確認をされたので、私も安心して登記申請手続ができます。しかし、私も司法書士ですから、売主・買主双方の代理人として、売買による所有権移転登記申請手続のためにも直接売主本人にお会いして、本人確認・登記申請意思確認をしなくてはなりません」と話した。


  • 本人確認のため現地へ

 私は、すぐに売主の娘さんに連絡をとり、売主本人が入所している名古屋市の介護施設へ行った。さっそく売主本人に会うため、面会室へ案内されて待っていると、本人が車椅子で来られた。娘さんが、「お婆さんが昔住んでいたH市から司法書士さんが来られましたよ」と言うと、大変懐かしがられていた。売主本人の緊張をほぐすため、H市のことをお話しすると、かつて住んでいた場所の近くにあった学校は今どうなっているのかと尋ねられ、「今も何ら変わりませんよ」とお答えすると安心されたようであった。
 そして登記原因証明情報と登記手続用委任状を持参していたので、署名捺印をもらう前に、売主本人の介護保険被保険者証等を見せてもらい、氏名、年齢(生年月日)、干支等を尋ねたところはっきり返事をもらえたので、本件不動産の売買による所有権移転登記申請についての意思確認を行ったところ、間違いのない心証を得た。
 そこで、持参した委任状に署名をお願いしたが、売主本人は、手が震えて上手に字が書けないから、娘さんに書くようにと言ったが、私は「おばあちゃん、展示会に出品するのではないから、書いてください」としつこく頼み、弱々しい署名ではあったが自分の名前を書いていただいた。実印は娘さんがご本人の面前で捺印した。権利証をあらかじめ用意してもらっていたのでそれを預かり、登記申請については、買主からの入金を確認したら法務局に持ち込むことにして、すべての案件を終了して施設をあとにした。それから三日後、入金の確認ができたと連絡が入ったので、法務局に登記申請をし、二日後無事に登記完了した。
 このように、登記の真実性確保につき、司法書士の本人確認・意思確認の役割が増加して責任が重くなったが、時代の要請でもあり、依頼者に迷惑をかけないためにも慎重に進めなくてはならない。

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