司法書士・行政書士小川貴彦事務所

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相続放棄の撤回

2010年09月15日

  • 息子たちの相続放棄

 この事件は、「夫が死亡し、妻である私が土地建物を相続したので不動産の名義を変えたい」という電話から始まった。相続人は、妻と息子が二人。息子たちは二人とも独立しており、夫婦で住んでいた自宅が主な相続財産である。長男は、財産はいらないし、父親は商売をしていたから隠れた負債があるかもわからないと、相続放棄をした。その話を聞き、次男も、何もいらないし、母親が相続したらよい、と放棄の手続をした、ということである。

  • 次順位相続人

 「待ってください。相続放棄の手続を済ませている、ということですが、ご主人には、ご兄弟はいないのですか」と尋ねると、「夫は養子に入ったのですが、実家には兄弟が九人います」と言う。

 法定相続人はどう定められているか。民法では、
1.配偶者は常に相続人
となり、配偶者以外では
2.子が第一順位の相続人
であり、子やその代襲相続人がいない場合
3.直系尊属人(親や祖父母)
4.兄弟姉妹
の順で相続人となる。子が相続放棄をした場合、最初から相続人ではなかったことになるので、前記の順で相続人となる。

 「お二人のお子さんが相続を放棄したら、相続人は、あなたとご実家のご兄弟の皆さんということになります。ご兄弟の方でお亡くなりになられた方がいれば、そのお子さんと遺産分割をするか、相続放棄をしてもらう必要があります」と言ったが、依頼人には理解してもらえない。息子だちと話してほしい、と言うので、息子さんだちと話をすることになった。

  • 相続放棄の撤回はできるか?

 二人の息子さんは、母親に相続させようと考えて相続放棄をしたのであり、次順位の相続人が現れるとは全く思っていなかった。父親の兄弟は数が多いこともあり、共同相続人は30人を超えることになる。そのようなことになると知っていたら、相続放棄はしなかった、相続放棄を取り消したい。と言う。

 しかし、民法九一九条で「承認及び放棄は、・・・・・・撤回することはできない」と定められている。相続放棄の取消を簡単に認めると、債権者や他の相続人、次順位相続人に迷惑や損害を与えてしまうからだ。例外として取消が認められるのは、詐欺、強迫によるものや、保佐人の同意がないのに被保佐人が相続放棄をした場合などであり、今回の事件ではあてはまらない。

  • 無効といえるか?

 取り消せないとしたら、無効だとは言えないだろうか。母親に相続させるための相続放棄であるのだから相続放棄は錯誤無効だ、といいたいところであるが、そう簡単ではない。

 一般の人には不条理であるかもしれないが、法律の不知は無効にはならない。しかし、無効が認められる場合もないわけではない。

  • 遺産分割の選択

 相続放棄は無効だからと、母・息子たちで遺産分割をして、登記を申請した場合、法務局では相続放棄が受理されていることはわからないから、普通に登記はできるだろう。しかし、相続放棄の手続が終わっていることは間違いないので、ずっと不安定な状態を続けることになってしまう。

 結局この事件の場合、死亡した父親の実家とは良好な関係であったので、30人以上の相続人間で遺産分割協議を行い、母親が相続する、ということになった。しかし、いつもそううまくいくとは限らない。

  • 専門家の関与があれば

 相続放棄の申述書には、放棄の理由にチェックを入れる欄がある。最も多いのは、「債務超過のため」であろう。今回の場合、「遺産を分散させたくない」にチェックを入れて提出している。受付で書記官から次順位相続人の説明があれば、そこで止まったはずだ。受付においても、また事前の相談においても、どこかで専門家の関与があれば、と強く思った事件であった。

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