従業員への事業承継
2011年03月16日
- はじめに
旧知の会社社長から、遺言書を作成したいとのことで相談があった。同社は、日用品雑貨の製造・販売を営み、従業員数も少なくない、堅実な中小企業である。社長には会社経営に携わる妻がいるが、子はいない。しかし、随分前に、跡取りとして予定していた養子(身内の子)が一人いる。養子は、会社業務にタッチせず、遠方で結婚し、生活している。帰ってくる様子もない。会社の全株式は、社長夫妻の名義となっている。そこで、社長は、自分が亡くなったら、会社経営を妻に引き継ぎ、その先は、会社の番頭らに事業を承継させたいと考えている。
- 事業承継の検討
会社財産は、ビル数棟、預貯金等である。遺言等を何もしないで、社長夫妻が亡くなると、会社とは無関係な養子に会社の全株式が相続され、その結果、会社財産も養子のものとなる。そのような事態になると、会社存続の危機に陥り、従業員らの生活も危うい状況となる。
初めは、社長夫妻のそれぞれの相続発生時に、会社の普通株式の保有数が合計四分の三以上(支配株主とするための数)となるよう、番頭らに遺贈することを考えた。しかし、社長夫妻の個人財産も最終的に会社に帰属させる予定である。また、個人財産よりも会社財産のほうが多い。そうした場合、養子の遺留分として、結果として会社財産の二分の一を養子に与えることとなると、会社経営が成り立たないおそれがある。
- 議決権のない株式の活用
そこで、養子には、議決権のない株式(ただし、配当、残余財産分配の権利はある)を相続させ、番頭らには、議決権のある株式を遺贈する案で進めることとなった。これなら、養子の遺留分を確保することができ、かつ会社の支配権・経営権は、番頭らに任せることができる。
- 手続の検討
当該会社は、特例有限会社である。有限会社は、数種の株式を発行することができない。そこで、有限会社の株主総会決議をし、有限会社から株式会社への移行をしつつ、株式会社の定款において、数種の株式を発行し、普通株式と議決権のない株式とをそれぞれ同数発行する形とした。役員等機関設計は、変更しないこととした。
- 登記手続
登記手続上は、有限会社の解散並びに株式会社設立の各手続をする。そして、数種の株式の発行の登記もすることとなる。
- 遺言の公正証書化
遺言については、自筆証書遺言も可能であるが、遺言の真正確保および相続発生後の手続を円滑に進めるうえで、特に、事業の存続に関するケースでは、公正証書遺言としておくのがよい。
遺言案を本人と検討したうえで、あらかじめ、その内容を公証人に伝えておくと、遺言当日、スムーズに遺言が行われ、遺言書の正本、謄本を受け取ることができる。
遺言者が亡くなった後、遺言執行を行ううえで、執行者を司法書士等に依頼しておくと遺言書に従い適正に手続が進むと思われる。
- 紛争予防の心得
相続に対し、何の備えもしていなかったため、紛争関係に陥ることがある。他方、遺言書の存在、生前贈与、専門知識、専門家の関与が紛争の種となる場合もある。
仮に、法定相続人間において、良好な人間関係が期待できそうな場合であったとしても、全体としてバランスがよく事後処理が進めやすい遺言書案であるとか、公平・適切な遺産分割案となるよう、信頼できる第三者のアドバイスも取り入れながら、相続の手続を進めるのがよい。
なお、話をまともに聞かないで、結論・事務処理を急ぎ、係争関係を助長するような専門家に乗せられないよう注意をしていただくことも必要であると思われる。



